「やっべ、遅刻!遅刻!母さん、行ってきます!」
「あらあらクルトったら。パンをくわえたままで。気をつけていってらっしゃいね。」
オレ、クルト。聖(セント)・ビショップ学園の2年生だ。
今日から新学期。今日は全校集会があるっていうのに寝坊しちまってから大変!制服のボタンもつけきらないまま、玄関を飛び出した。
オレの走り出す方向になにやら見覚えのある人影がある。コイツは…。

「おっはよー、クルト!今日も遅刻?クルトのことだからまた遅くまでゲームしてたんでしょ。」
「うるせーよ、リノ。昨日は徹夜で勉強してたんだよ。お前こそ早く行かないと遅れちまうぞ。」
制服のボタンをつけているオレに話しかけて来るのは、幼なじみのリノ。こいつはいつもテンションが高い。まだ朝一番だってのに。
「だってクルトがいつまでたっても出てこないんだもん。リノ待ちくたびれちゃった。」
「いや、一緒に行こうなんて一度も言ってないだろ。待たずに先に行けよ。」
「もう、クルトつめたーい、ぴえん。じゃあ先に行っちゃうよ〜。クルトも遅刻しないようにね!全力全開!元気百倍!!」
リノは猛スピードでオレの視界から消えていった。リノは人一番足が速い。やれやれ。騒がしい朝だ。
気を取り直してオレも走る。新学期早々遅刻ってわけにもいかないしな。
と、ペースをあげるオレの前にまた人影が。その人影はオレの方に向かって走ってくる。
「お願い!クルト、ちょっと影貸して、ちょっとクルト、通り過ぎない!止まりなさい!」

向かいから走ってきたのは、ドールスローター・フィア。コイツとは学校は違うんだけど、同じ塾に通っている同級生だ。
「フィア、お前またアイツと喧嘩したのか?」
「ごめん!しばらく匿って!」
フィアはオレの影の中に入っていく。影の中に入る、というのはオレの後ろに隠れる事の例えではない。文字通り影の中に”入って”いく。
コイツは人の影の中に入ることができるのだ。
…で、コイツが来たということは、だ。アイツもセットなんだろうな…。
「フィアー!!!!!!待ちなさーい!!!!!!フィア!どこに隠れたの!出てきなさい!出てこないと痛いわよ!クルト!フィアのこと見なかった?こっちからフィアが来たでしょ。」

鬼の形相で走ってきたのは、これまた同じ塾生のアニエス。怒らせたら怖いんだコイツ…。
「ああフィアならオレのかgeテテ」
フィアがオレの影から手を出して足をつねる。仕方ないな…。
「フィアならあっちの方に走って行ったよ。」
オレは交差点の右の方向を指差す。
「あっちの方向?ホントね、クルト。あっちの方向に人影なんて見えないけど。嘘を言ったら”切って確かめる”わよ。」
「オレがお前に嘘つくわけないだろ、あはは…。」
「まぁいいわ……と言うとでも?…抜刀!」
アニエスはオレに刃を向けて斬りかかった。
「やめろっ!」
オレはとっさに身を交わす。
……。なんとか交わしたか?
切先の行方を目で追うと、それはオレの影の方に刺さっていた。
アニエスの刀に刺された影は逃げるようにオレの背後にまわる。
「やっぱり其処にいたのね。フィア。まぁいいわ。今日はクルトの顔に免じて見逃してあげる。次はただじゃおかないからね。」
アニエスは元来た方向に戻って行った。やっぱりこえー、アイツ…。
「フィア、お前何やったんだまた。」
オレは足元の影に向けて声をかける。
フィアは影から顔だけ出して、アニエスがいないのを確認する。そして影の中からぬるりと出てきた。
「…アニエスのぶんのプリンを食べた。」
「お前いい加減懲りろって。」
こいつは本当に手癖が悪い。
「じゃ、ありがと。また塾でね。」
フィアはオレの来た方向にヌルヌルと走って行った。
やれやれ、プリン一つで斬りかかられるこっちの身にもなってみろ。
オレはまた学校に向けて走り出した。
★学校まで後1000m★
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